一見して普通の黒人のおばさんにしか見えないオプラ・ウィンフリーは、実はアメリカでは押しも押されぬスーパースターだ。毎昼編成の一トーク・ショウ「ジ・オプラ・ウィンフリー・ショウ」、通称「オプラ」は、過去25年間、シンジケーションのトーク・ショウとして圧倒的な人気を博しており、他のトーク・ショウはその足元にも及ばないと断言して差し支えないほど、トップの座に君臨し続けている。「オプラ」の前に「オプラ」なく、「オプラ」の後に「オプラ」なし。
今春からはウィンフリーは自番組だけに留まらず、自分の名を冠したチャンネル、オプラ・ウィンフリー・ネットワーク (OWN) を立ち上げ、ますますその基盤を広げている。一方、自分のチャンネルを持つということが多忙を極めることになるのもわかりきっていたことで、ウィンフリーは昨年、長年続いた「オプラ」に終止符を打つと発表、このほどその最終回が放送された。
なんせアメリカで最も人気と歴史のあるトーク・ショウの最終回だ、最後の2週間くらいは「オプラ」の過去25年間の総集編という感じになった。なんせ歴史がある。見ると、確かにああ、こういうのがあった、ああいうのもあった、となんらかの話題になったエピソードが数えきれないほどある。新聞や雑誌でも「オプラ」のベスト・テン企画みたいのをいずこもやっており、「オプラ」が最終回を迎えることが、アメリカ人にとってどれだけ事件であるかを窺わせる。
その「オプラ」の最終週は、月曜と火曜がいつものスタジオではなく、「フェアウェル・スペクタキュラー」と題し、シカゴのユナイテッド・センターで収録した特別版が2部構成で放送された。とにかくゲストの顔ぶれがすごい。一番最初に登場したのがトム・ハンクス、次がトム・クルーズ、次に登場して歌を披露したのは、昨年、NBCの勝ち抜きタレント・リアリティ「アメリカズ・ガット・タレント (America's Got Talent)」でセンセーションを巻き起こした10歳の天才シンガー、ジャッキー・エヴァンコだ。
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まず彼女、そしてジョシュ・グローバン、最後はパティ・ラベルが現れて順に「オーヴァー・ザ・レインボウ (Over the Rainbow)」を歌う。エヴァンコがまず赤い靴だけに色が入っているモノクロ画面で登場、そして「オズの魔法使い (The Wizard of Oz)」よろしく赤い靴のかかとをかちかちかちと3回、なんていういかにもの演出。歌詞を知らなければほとんど原曲がわからないくらいのアレンジだが、しかし、それでも皆うまいと思わせるところはさすが。
その次に登場したのはマドンナで、さらにダコタ・ファニングとその他大勢の子供たちが壇上でウィンフリーに挨拶、ビヨンセが「ラン・ザ・ワールド (ガールズ) (Run the World (Girls))」のパフォーマンスを披露する。いつ見てもすごいパワーだ。その後もジョン・レジェンド、ダイアン・ソウヤー、ハリー・ベリー、ケイティ・ホームズ、クイーン・ラティファという面々が入れ代わり立ち代わり現れてウィンフリーの業績を称えると共に労をねぎらう。この日のトリはラスカル・フラッツのパフォーマンスで、この特番は翌日にも続くのだが、既にもうお腹いっぱいという感じ。
翌日第2部もこんな感じで、ウィル・スミス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ジェイミー・フォックス、スティーヴィ・ワンダー、アレサ・フランクリン、マイケル・ジョーダン、ジェリー・サインフェルド、サイモン・コーウェル、ロージー・オドネル、といった大御所が次々に現れて賛辞を贈るかパフォーマンスを披露する。現在シンジケーションで「ドクター・フィル (Dr. Phil)」、「ドクター・オズ (Dr. Oz)」、「ネイト (Nate)」という人気番組のホストに就いている「オプラ」上がりのパーソナリティ、フィル・マグロウ、オズ・メーメット、ネイト・バーカスも顔を見せる。
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その後もタイラー・ペリー、クリスティン・チェノウェス、マヤ・アンジェローといった俳優、シンガー、詩人が登場するが、個人的に最も気になったのは、ウィンフリーのベスト・フレンドということで登場したゲイル・キングとマリア・シュライヴァーの二人だ。キングは現在ウィンフリーのOWNで自分のトーク・ショウ「ゲイル・キング・ショウ (Gale King Show)」のホストを担当している。そしてシュライヴァーは、夫のアーノルド・シュワルツネッガーの浮気、隠し子問題で自分の家の中が火の車で、本当ならたとえ親友でもウィンフリーのことにかまけている余裕なんかさらさらないと思えるところを出てきた。もちろん自分のことやシュワルツネッガーのシの字も匂わさなかったし、その他の者も一言も口にしなかったが、このサプライズ・パーティに唯一暗い影を落としたシュワルツネッガーの罪は重い。
そんなこんなで2日間に及んだサプライズ・スペクタキュラーも終わり、「オプラ」の通算第4,561回目を迎える本当の最終回は、水曜日に放送された。さすがに前日前々日とあれだけ派手にゲストを呼んで打ち上げているものだから、この日はゲストはなく、いつものスタジオに戻り、1時間を観客を前にしたウィンフリーの抑制したトークだけで通し、番組を締めくくった。この緩急のつけ方のうまさもまたウィンフリーならでは。
実はウィンフリーは、OWNにおいて、彼女が実質上の最高責任者、経営者でありながら、役職上はこれまではただの従業員の一人に過ぎず、OWNから給料をもらうという形でOWNに携わっていた。自分の時間を100%OWNに割いているわけでもないのに、形だけの役職がついて給料も人より多くもらうことを潔しとしなかったようだ。既に億万長者のウィンフリー、今さら100万ドルくらいにけちけちしない。
一方、そのOWNは、実は現時点では当初に予想されたほど特に成績がいいわけではない。そこそこ注目されている番組はないわけではないが、誰もが見てヒットしていると断言できる番組は、今のところまだない。これではいかんということで、先頃、「オプラ」を終えたウィンフリーが、正式にOWNのCEOとして就任した。これによってチャンネル全体の梃入れ、活性化を図っていくものと思われる。既に「オプラ」でウィンフリーの実力は証明済みだが、今後は単にTVパーソナリティとしてだけではなく、会社経営者としての実力も問われることになる。
SCI FIチャンネルのショーDR人
さて、「オプラ」というシンジケーション最大の人気番組がなくなったことで、米TV界の日中の時間帯は今、戦国時代、群雄割拠の時代を迎えている。これまでは、例えばニューヨーク時間で4時から5時まで編成されている「オプラ」に対し、本気で戦いを挑める番組なぞなかった。「ドクター・フィル」は「オプラ」に次ぐ人気のトーク・ショウだが、ウィンフリーに恩義のあるマグロウが、「ドクター・フィル」を裏番組として「オプラ」にぶつけてくる可能性 -- というか、ローカル局がウィンフリーの意向を無視して「オプラ」スピンオフ番組を「オプラ」の裏番組として当ててくる可能性は、皆無と言ってよかった。ウィンフリーを怒らせたら、本気でアメリカでTVの仕事はできなくなる恐れがある。
しかし状況は一変した。「オプラ」のなくなったその時間帯に乗り込んできたのは、現在FOX系列が放送している「ドクター・オズ」だ。「ドクター・オズ」はニューヨークで収録されており、これまでは朝11時から放送されていたが、これを機に4時台にも放送、ニューヨークで、「ドクター・オズ」のロゴをつけたイエローキャブ500台を午後4時からタダで乗り放題にするキャンペーンを行うなど、本気を印象づけた。基本的に「ドクター・オズ」は現在、当初の健康・医療志向番組というよりも、女性向け減量番組に特化しているような印象があるが、お手並み拝見というところだ。
他にもCBSはこの時間、疑似法廷番組としては一番人気を誇る「ジャッジ・ジュディ (Judge Judy)」を編成、NBCはトーク・ショウの「ジ・エレン・デジェネレス・ショウ (The Ellen DeGeneres Show)」を放送している。これまでは一応ジャンルや傾向の異なる番組ということで両番組ともそれなりにやってきたが、特にポスト・ウィンフリー最右翼のトーク・ショウ・ホストと見られているデジェネレスの「エレン」の株が高まっている。
また、「オプラ」を編成していたローカル局、ニューヨークではABCは、「オプラ」の抜けた穴を埋めるのに、同様のトーク・ショウや定番の疑似法廷番組を持ってくるのではなく、ニューズ番組を前倒しで持ってきた。これでABCは、4時台「アイウィットネス・ニューズ (Eyewitness News)」、5時台「アイウィットネス・ニューズ」、6時台「アイウィットネス・ニューズ」、6時半がダイアン・ソウヤーがアンカーの「ワールド・ニューズ (World News)」と、3時間ニューズが続くことになる。
しかも見てみると4時、5時、6時とアンカーが代わりこそすれ、やっているのは基本的に同じニューズの焼き直し、使い回しだ。1時間やそこらで大きな変化が起こるとは到底考えられないから、これは当然だろう。視聴者も、このうちの1時間分のニューズを見ることはあっても、3時間ずっとABCにチャンネルを合わせていることはないだろう。それでもABCはニューズにした方が採算がとれると踏んだ。実際の話、ネットワークでは他に4時台にニューズを編成しているチャンネルはないから、もしその時視聴者がニューズを見たいなら、ABCにチャンネルを合わせる確率は非常に高いと言える。要はその潜在的視聴者がどれくらいいるかの問題だ。ABCはマーケティングしてこれは充分行けると踏んだに違いない。
ニューズ偏重になったABCに対し、NBCはこのところ、見るからにあんまりというくらい、女性重視の芸能・ファッション・ゴシップ関係番組で昼間を埋めている。ケーブルの姉妹チャンネル、ブラヴォーの「ザ・リアル・ハウスワイヴズ・オブ‥‥ (The Real Housewives of…)」の再放送を2時台に持ってきた時には開いた口が塞がらなかったが、まあ、確かに基本的に番組製作費ゼロでそこそこ視聴率を稼げれば、メリットは少なくないのは確かだ。
また、私が昔からクズ番組と酷評してきた日中のソープ・オペラもどんどん姿を消している。一昨年、ソープの金字塔「ガイディング・ライト (Guiding Light)」がその灯を消したが、今年、ABCでも40年選手の「オール・マイ・チルドレン (All My Children)」が編成から消える。ただし最終回を迎えるのではなく、ウェブ・シリーズとして続いていくそうだ。こないだCBSのニューズを見ていたら「オール・マイ・チルドレン」が終わることに対して通行人に意見を聞いていて、30代くらいの女性が「I don't care」とさもどうでもよさそうに答えていたので、要するに現在、人々がソープに興味をなくしているのは確かなようだ。別に私だけがソープを下らないと思っているわけではない。
そんなこんなで米ネットワークの日中の編成は、現在過渡期、激変期を迎えている。果たしてこの競争を生き残るのは誰か。プライムタイムのドラマやシットコム、勝ち抜きリアリティ・ショウばかりがネットワークの番組ではない。
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